9月28日に第52回自立支援講座を伊東事業所で開催した。テーマは「障害のある子が地域で安心して生きていくために」。講師は、公益社団法人あい権利擁護支援ネットの理事で社会福祉士、心理臨床心理士として知的・発達障害者の評価・相談に関わるの小嶋珠実氏。

自閉症スペクトラムとADHDと学習障害は分けて考える必要
発達障害というのは日本独特の概念で、本当は自閉症スペクトラムとADHDと学習障害は、分けて考える必要があります。ただ実際は自閉症スペクトラムとADHDが合併している場合が多いです。ここ数年診断基準が明確になってきました。最近はたぶん自閉症スペクトラムの中でご家族も支援者も一番困るのは、多動傾向を伴う、落ち着きがない、です。多動傾向は一定年齢からは多弁(人の話を全然聞かない)になります。

小嶋氏は、最重度と言われる自閉症の方の後見人もしていますが、昔は施設入所しか考えられませんでした。今は違う。重い自閉症の方のほうが、だんだん落ち着くのでなんとかなるが、対人関係の障害のほうが難しい。そうした相談を受けることが多いそうです。

親にしても職員にしても、しゃべれるから話をすれば分かってくれるのではないかとなりがちですが、難しいのであまりコミュニケーションにとらわれずに、と考えているそうです。

今、いろんな生活パターンがあって、小嶋氏が関わっている大学では療育手帳を持っている学生もいます。平成25(2013)年に障害者権利条約が日本でも批准・施行され、それに伴って障害者総合支援法も施行されました。障害があってもなくてもという発想となっているので、ご本人や家族が将来どういう生活を望んでいるのかで生活していく世の中になっています。

障害は直らない、どうやって楽に生きていくかを考える 「障害のある子が地域で安心して生きていくために」ということで小嶋氏はレジメを作りました。障害と病気の違いは、後者は治療が可能ですが、前者は残念ながら直りません。どうやって楽に生きていくかがポイント、その方法を考えるのが小嶋氏ら専門職の仕事です。

レジメではまず障害に関係する法制度をとりあげました。平成23(2011)年にがらっと変わりましたので、平成23年より前の法律を読むときは要注意だそうです。平成18(2006)年に、障害者権利条約が国連で採択され、日本も平成25(2013)年に関連法規が整備平成26(2014)年、日本の批准が国連で承認されています。いずれにせよ、障害のある方もない方も地域で生活をという考え方になっています。

次に障害者の定義。平成23(2011)年までは身体障害、知的障害、精神障害の三つしかなかったのですが、それ以降四つになりました。まず発達障害が加わりました。それから「その他の心身障害(難病や慢性的な疾患→難病)」が加わりました。身体、知的、精神の各障害には手帳がありますが、発達障害やその他の心身障害については手帳を作らなかったので、今の福祉サービスを受けるのに手帳はいりません。主治医や移動相談所などの判定機関などの証明書がその代わりとなります。このあたりは行政の職員でも分かっていない場合があります。

これは国が決めた制度ですが、実際の運用は各自治体に委ねられている面があります。なおバスの無料パスなどは手帳が必要な場合があります。

また知的障害の定義は国の法律では決まっていません。地方自治法によって、全国で一律に何かを決めることを禁じたためです。そのため自治体によってかなり変わります。医療費の補助もそうです。

福祉と教育は発想が違います。教育は何かを教えながら育てていく、福祉は出来ないことは無理させないことが多い。また学校は学校長の権限が大きい。誰を入れるか入れないかは学校長が決められる。入れない場合は特別支援学校に行きなさいとなる。一方、福祉のほうは行きたい人がいた場合、どんなに重くても受け入れを断ることは法的に認められません。

次に「知的障がいの誤解」について話しました。よく「話せば分かる」と言われますが、何か言われて行動に移すとき、作業記憶(ワーキングメモリー)が必要となるが、知的障害や発達障害の人は苦手。言葉だけで言われると混乱することが多い。小嶋氏が関わっている障害者がいるグループホームでは言葉だけでの伝達を職員に禁止しています。

自閉症や知的障害の方には、視覚的情報を伴う聴覚刺激で伝えます。理由を説明するだけではわかってもらえないことが多いので、するべきことを直接伝えます。たとえば「割り込んではいけません。後ろに並んでいる人がいるんだから」ではなく「後ろに並びましょう」です。適切な方法で伝えれば分かってもらえます。単に“丁寧”は間違っています。

よく言われるのは、小さい子供は、分かっているけど話せない、つまり聞き取り言語と発音言語に差がある発達性言語障害という概念がありましたが、親御さんが意識するのはいいですが、現在は専門職側がこの言葉を使用するのはやめようとなっています。科学的根拠がないからです。

現在の障害児、障害者の福祉についてはエビデンス(科学的根拠)を求められる時代。気合いだけではだめ。“愛のムチ”は絶対存在しません。

「やりたいこと、したいことをできるようにする」が自立の概念
「できないのだから手伝ってあげない」というのがありますが「できることを手伝うのもよくない」。福祉用語で言ういわゆるパターナリズムに関連する話です。一方で「自分でできるのだから全部やってもらおう」という考え方があって子供のうちはそれでいいと思うが、大人になった場合、「できない選択も認めよう」という考えがあり、「本人がやりたくて、やれることはやってもらいましょう」という考え方もある。

自立の概念は、昔は「出来ることを増やそう」だった。現在は「やりたいこと、したいことをできるようにしよう」、「やりたいこと、したいことを自分で選べるようにしよう」が自立の概念。知的理解が低いから子供と同じように接していいというのは間違いです。