勉強レストランそうなんだ!!がこれまでに行ってきた自立支援講座。
テーマ毎に自立支援講座の記録をご紹介しながら、放課後等デイサービス指導員が読み返し、さらに質の高い支援につながるヒントがないか探してみようと思います。
ちなみに本記事中で紹介される人名や役職は参照元記事の公開当時のものです。
今回取り扱うテーマは『保護者』についてです。
保護者をテーマとした自立支援講座はアーカイブに2回分の記事が公開されています。
第26回 「知的障害者の保護者の悩みに応える」(2011.7.31)
http://so-nanda.com/2011/08/21/32/
あい権利擁護支援ネット理事の小嶋珠実氏を講師にお招きし、レジュメには「将来の生活の場は?」「就労への支援」「将来必要なお金は?」「成年後見制度」「性への興味の対応は?」「家族の役割」「今後注目される知的障がいのある人が利用する法律」など気になるトピックが盛りだくさんだった様子です。
活発な質疑応答が行われた模様で、こうした情報共有と学びの場の重要性を改めて実感いたします。
第55回 「親なきあとを考える」(2020.1.26)
http://so-nanda.com/2020/03/30/2605/
講師は、行政書士で「『親なきあと』相談室」を主宰する渡部伸氏。
『親なき後』というテーマは、子を持つ親にとっては最後について回る共通のテーマです。しかし漠然としていて具体的なイメージはつかみにくく不安になると思います。
その不安を大別するとお金のこと。住まいのこと。日常的なケアをしてくれる制度や仕組みのことの3つに分類され、制度や仕組みは今後も増えていくことが予想されます。
老々介護という言葉も耳馴染みが増えてきましたが、老障介護の事例が紹介されています。高齢の親と中高年にさしかかった障害のある子でトラブルが発生するケースです。制度やサービスの情報をキャッチして、社会的接点を絶えず持ち続けることが重要です。
お金の不安についての話です。住まいのことも日常的なケアのこともお金がなければ解決できない場合が多いことがわかります。
お金で困らないためには具体的な金額をいくらと、たくさん残すことより、そのお金が本人の将来のために使われる仕組みを考えなければならなくなります。
お金の管理については成年後見と自立支援事業があります。障害年金を受給するにあたって重要となる初診時の診断書。かかりつけの精神科医を確保し、一年に一度の健康診断でもいいから縁をつないでおけると良いでしょう。
受給にあたってもう一つ重要な病歴・就労状況等申立書だが、こちらは障害がわかったときや障害のせいでこんなことがあったなど時系列で記載することになります。要領をわかっていない医師が書くと判定で不利になることもあり、保護者から医師にメモ書きを渡すなどする手もあります。
最近の障害年金はほとんど有期年金なので、更新の時には診断書を同じ内容にしてもらうとよいそうです。診断書のコピーを取っておけると尚安心ですね。
親と離れて生活する場合、一番お金がかかる可能性があるのが住居費です。入所施設(障害者支援施設)に入ると、費用は障害年金から支払われるが、本人に一定のお金が残るそうです。
グループホームの場合、基本は障害年金で支払うことになっているが、実際は地域によっても施設によってもバラバラだそうです。
グループホームに住んでいても昼間は出かけたりするのでお金がかかります。土日の余暇活動でもお金は必要ですし、当然本人が働いたり親が残したりする必要があります。
行政がやっている、障害者が優先的に入れる公営住宅とか居住サポート事業を利用する手もあります。一部の自治体では、障害者がアパートなどに住んだ場合、助成金を出しているそうです。
固定費については、保険料などはかかるが、割引とか減免措置があります。例えば携帯電話も手帳を持っていると割引になります。NHKの受信料も割引制度があります。医療費では障害者医療費助成制度があります。東京都の場合、身体、身体や知的の手帳を持っている重度の人の保険診療は無料です。
一方精神通院医療での自立支援医療制度。軽度の人だと助成の対象にならないし、あらかじめ区などに申請しておく必要があるが、精神科に通ったり精神科の薬を出してもらったりする時は、この制度をを利用すると、通常の3割負担が1割になります。
もめ事を防ぐ意味でも遺言を書くことをが推奨されています。
「うちは一人っ子だから全部この子にいくのだから遺言は必要ない」という声もあるようですが、渡部氏の紹介された事例を引用します。
“障害のある子が一人いて、その子のためにグループホーム建てようと夫婦でお金を貯めていた。ところが父親が亡くなって、母親と子どもに父親の財産を半分ずつ分けた。そのため母親の財産ではグループホームを建てるには足りなくなった。子どもが相続した財産には手が出せない”。
遺言に関してさらに二つほど紹介されています。
一つは相続遺留分。配偶者と子どもには、法定相続分の半分は遺言の内容がどうであれもらう権利があります。
もう一つは遺言執行者の話です。誰かが亡くなって遺言書がなければ、遺産分割協議書を作成することになります。どういうふうにお金を分けるか話し合ったことを書類に落とし込みます。
その書類には、相続人全員が署名して実印を押します。字が書けない子がいた場合は原則として成年後見人をつけることになります。多くの障害者の親は、なるべく成年後見制度を使いたくないようです。しかし相続が始まると使わざるをえなくなるのです。遺言書があっても金融機関に提出する書類は同じようなことが要求されます。
しかし遺言執行者を定めておくと、成年後見制度の利用を避けることができます。弁護士でもいいし、相続人の家族の誰かを指定しておいてもいいそうです。家族の場合、本当にちゃんとやってくれるか心配であれば、多少お金がかかっても弁護士や専門家に依頼するほうが安心かもしれません。遺言執行者を複数にする方法もあります。
次に信託の話です。相続した財産を障害のある子が管理することが難しい場合があります。大変な無駄遣いをするかもしれません。そこで、家族とか親戚で信頼出来る人と信託契約を結びます。信託契約を結んだ人は、信託銀行などに口座を作り管理することになります。毎月など決まった期間に決まった金額を子の口座に振り込むので、一気に使ってしまう心配がありません。
生命保険信託と家族信託
死亡保険金をいったん信託銀行などに入れ、そこから定期的に子に渡していく生命保険信託や家族信託、障者扶養共済制度についても紹介されています。
これらは、少し前にはなかったものがほとんどです。これからも有益なシステムや制度は増えていくことが予想されます。 大変ですが継続的に情報を集めてアップデートしていく必要があ
ります。
成年後見とは、高齢になって認知症になろうが、障害があって判断能力が不十分であろうが、本人が本人の意思や権利を尊重してもらって本人が地域で安心して生活するための制度です。本人を守る人をつける、これが成年後見人。成年後見には法定後見と任意後見があるが、本日話をするのは判断能力が不十分な人向けの法定後見。誰を成年後見人にするかは希望は出せるが、最終的に決めるのは家庭裁判所です。
基本的には、財産管理と身上監護。財産管理は本人の預貯金の出し入れ、不動産などの管理、処分、身上監護は、診療、看護、福祉サービスなどの利用契約、本人との面談を行います。
渡部氏自身の事例です。世田谷区(東京)在住で、世田谷区で区民向けに成年後見人の養成研修があり受講した。終了には半年かかったそうです。しばらくすると区から成年後見人をやってほしいとの依頼があった。どういう人の成年後見人かというと高齢で身寄りのない人。ケアマネとかケースワーカーが援助してきていても、認知症などになると財産などに関することに関わる権限がない。となると行政に話がいき、成年後見人がつくことになります。弁護士など専門家がつくこともあるが、研修を受けた区民が後見人になるよう依頼がくることもあります。区民後見人と言い、半分はボランティアで引き受けます。
障害者の後見人が行うことについて。多くの人はグループホームとか入所施設に入っています。その場合、小口のお金は施設で管理してくれることが多く、お出かけする時は小遣い帳をつけて本人にお金を渡し、帰ってきてお釣りをチェックするそうです。
大きなお金の管理は難しいので、後見人が管理します。あと後見人は取消の権限があるので、例えば絶対使わないような高価な羽毛布団を購入契約した場合、後見人が取り消せます。そんな形で本人の財産を守ってくれます。
一方で、分かりにくいのが身上監護。本人の面倒を見てくれる事業者と契約する権限が身上監護です。渡部氏が89歳の男性への身上監護でやっていることについて紹介してくれています。後見人として福祉施設への入所契約を行い、本人が安定して継続して生活できているか見守るために、そのホームに毎月顔を出し、ホームの職員とも情報交換しているそうです。
渡部氏が思う成年後見制度の最大のネックは、成年後見制度を一度利用し始めるとやめられないこと。厳密に言うとやめる手続きがないわけではないそうですが。それから第三者後見人の場合、長期間後見費用を払い続けなければならないこと。家族が後見人の場合も、家庭裁判所が、後見監督人を選任したと通告してくることがあり、その場合も費用がかかる。どちらにしても本人が亡くなるまで費用を払い続けることになります。
理念は絶対間違っていないので、色々なことを理解した上で、是非使ってほしいと渡部氏は仰っています。本人を守る重要な制度なのですが、無理に使う必要はないとも仰っています。
成年後見制度について相談できる窓口がどこにあるか。東京23区では、各区の社会福祉協議会の中に成年後見センターとか権利擁護センターなどの名称の部署があり相談に乗ってくれます。家族会などに入っていれば、先輩の親御さんが成年後見人をしている場合もあり、リアルな話も聞けるかもしれません。
社福祉法人による成年後見についての言及や、成年後見制度に類似したサービスとして、地域福祉権利擁護事業(日常生活自立支援事業)についても解説されています。
富山や宮城にあるという共生型グループホームの話はとても興味深いです。
障害者と高齢者のグループホームは、法律・制度の関係で別々だったが、これを一緒に生活するようにしたものとのことです。
料理を障害者と高齢者が一緒に作るとか、女の子と高齢者のグループホームでは女の子が高齢者の部屋の掃除を手伝うとか車イスを押すとか、今までは支援される側だけだった人が、支援する側にもまわれる。そこから、自分らしい生き甲斐とかやり甲斐が生まれる。確かにケアをすることでケアされることがあるというのは実感がわきます。
2階がシェアハウスで1階がB型作業所になっている練馬区の事例なども希望がわきます。
大分にある有料老人ホームは、2階が半分に分かれていて一方が有料老人ホームでもう一方が障害者グループホーム。有料老人ホームには親が入り、障害者グループホームにはその子供が入れるそうです。親子で住んでいる事例はまだないとされていますが、住まい方のバリエーションとして記憶に留めておきたいです。
他に住まいの動きとして、ハウスメーカーが土地持ちオーナーと運営事業者をマッチングしてグループホームを建設する事例を紹介しています。
福祉サービスは是非積極的に利用してほしいとのことです。最初から色んなサービスを使うことで、地域もその方たちのことを知ることができるし、何かあった時も対応しやすくなります。
親が自分たちで面倒みられなくなった時、すなわち“親なきあと”について相談しようと思っても相談窓口がない。渡部氏は「親なきあと相談室」を設け、窓口となって、漠然とした悩みに対して、必要な窓口につなぐことをやっているそうです。
最後に今からやっておいてほしいこととして3つ挙げられています。一つは将来のことは家族で共有してほしい。もう一つは兄弟姉妹で情報共有してほしい。兄弟姉妹も情報共有によって自分たちはどうすべきかを考えたいことが少なくない。最後の一つはショートステイなどでの一人暮らしの練習です。
将来子どもが困らないためにやっておくことは、定期的にお金の入る仕組みを用意すること。病気リスク対応のための保険加入。困ったときに頼れるルートの確保など幾つかあります。こうした準備がうまくいかなくても、地域の中で接点を持っていれば、子どもの面倒は周囲の誰かが見てくれる。と渡部氏は結んでいます。
(指導員:磯貝佳史)