勉強レストランそうなんだ!!がこれまでに行ってきた自立支援講座。

テーマ毎に自立支援講座の記録をご紹介しながら、放課後等デイサービス指導員が読み返し、さらに質の高い支援につながるヒントがないか探してみようと思います。

ちなみに本記事中で紹介される人名や役職は参照元記事の公開当時のものです。

 

今回取り扱うテーマは『就労』についてです。

就労をテーマとした自立支援講座はアーカイブに7回分の記事が公開されています。

 

第23回 「『働く幸せ』に向けて~知的障害者に導かれた企業経営と国への期待」(2011.1.23)

http://so-nanda.com/2011/01/25/24/

 

チョーク製造大手の日本理化学工業。雇用している社員の7割が知的障害者だそうです。会長の大山泰弘氏を講師に迎えて『働く幸せ』の実現についての記録です。

大山会長が初めて2人の知的障害者を雇用したときに思ったことを、その後の住職との会話で思い直す件は、筆舌にし難いものがあります。

「企業は人を幸せにするためにある」と胸を張って言える会長の理念と、それを画餅とせず自ら工夫によって具体化していった道のりにただただ頭が下がります。

ベルギー方式という福祉制度についても大変興味深く読ませていただきました。

 

第24回 「話します自分の仕事のこと(第5回)」(2011.3..20)

http://so-nanda.com/2011/03/28/25/

 

東日本大震災直後の空気をまとった文体です。

東京・恵比寿にあるスリランカ料理 & BEER「Palette」に勤務する佐藤氏と、すかいらーくグループのカフェレストラン「ガスト」に勤務する楠氏が働く一日の模様をビデオ上映したそうです。

佐藤氏は青鳥養護学校(現・東京都立青鳥特別支援学校、世田谷区)の高等部を卒業して「Palette」に就職、以来20年勤務し、「辞めたいと思った時もあった」そうですが、今や主任として欠かせない戦力。

楠氏も旭出学園(東京・練馬区)の高等部専攻科を卒業して勤務し始めてから3年で、同店のキッチンチーフから「いないと困る」と言われるほどの戦力として活躍されているとのことでした。

後半は「Palette」店長の南山達郎氏が、知的障害者就労の考え方とこれまでの実績について語り、次いで株式会社すかいらーくの人事本部人事政策部教育・採用担当の山本優夏氏からすかいらーくグループの知的障害者雇用の考え方と現状の紹介があったとのことです。

障害者枠で働いている当事者と雇用側、双方の意見を聞き、実際に働いている姿を動画で見られる試みは大変意義深いものだと思います。私も機会があれば是非参加したいと思いました。

 

第30回 「話します自分のこと~ふたたび」(2012.3.18)

http://so-nanda.com/2012/04/01/45/

 

就労している知的障害者が自ら自分の仕事について語り、1日の就労の様子をビデオで紹介するシリーズの総集編的な内容です。

撮影時からさらに時間が経過したことで過去・現在・未来と語れる観点の幅が増えています。

課題だった臨機応変が就労することで身についたというケースや、改めてのビジネスマナーの重要性など、障害のある人とない人が混在する場だからこそ刺激が起きて、改善の一手が芽吹くことが読みとれます。

 

第29回 「知的障害があればこそ幸せな就労を―早めに覚えたいビジネスマナーとPCスキル」(2012.1.22)

http://so-nanda.com/2012/01/24/41/

 

日本ヒューレット・パッカードのシードセンターのセンター長、上田氏を講師に、シードセンターのビジネスマナーとPCスキルを実務に携わりながら2年間でトレーニングするプログラムについてお話しいただいております。

PCを利用する場合(主にEXCEL入力)とPCを利用しない場合(社員向け荷物発送、契約書の電子化)での働き方や、一人で仕事をするための個別トレーニング。マナー研修などもパワポ教材で行っているようです。

同センターではうまくいかなかったが別の就職先でうまくいった事例の紹介もあり、実例から知見を得ていくことの重要さを実感します。

 

第35回 「失敗例に学ぶ就労継続のヒント」(2013.3.10)

http://so-nanda.com/2013/03/13/79/

 

平成25年度から障害者の法定雇用率が引き上げられ、中小企業での雇い入れが本格化した話から始まります。

就労に際して身につけたい能力やビジネスマナーも重要ですが、就職したあとのことについて話されている点に着目したいです。

せっかく就職したのに退職してしまう事例も残念ですが、我慢して働き続けた結果、知的障害に加えて精神障害を起こしてしまうケースもあるようです。

この記事が書かれたころには〝働き方改革〟や〝プレゼンティーイズム〟という言葉も耳馴染みはなかったでしょうし、就活のゴールは採用だったとしても、職業人としての採用はスタートなのだと改めて実感いたします。

後半でのグループホームでの生活が、家族以外の仲間との共同生活を通して、規則正しい生活や職場での孤立化を予防するなどの効用をもたらしているというお話も興味深いです。

 

第42回 「知的障害のある人々の就労の今」(2015.7.4)

http://so-nanda.com/2015/07/18/109/

 

講師は社会福祉法人ドリームヴイの理事長である小島靖子氏です。小島氏は元・都立王子擁護学校(現・都立王子特別支援学校)の教員で、長年障害のある方々の就労支援に携わってきました。

1950年頃の就学免除時代から、1980年代になってやっと障害のある人々が全員就学を果たします。一方でそこから彼らの就職先を開拓していく時代がはじまるわけです。

今日では障害者雇用枠の制度や特例子会社というものも増え、記事中の小島氏も「ある意味では“良い時代、地域のなかで暮らせる時代”になったようです。また、企業が障害者を雇用する動きもあながち雇用率の達成のみが目的ではなく、“共生社会”という社会理念がかなり一般社会に根付いてきたのではないか」と仰っています。

また、福祉就労(作業所などへの就労)と一般就労(企業などへの就労)という分岐についても言及されています。

小島氏は出来るだけ一般就労を皆に薦めたいと仰っています。

厳しいけれど可能な限り挑戦して、ダメな時は潔く辞めることも必要という論旨でありますが、挑戦しやすく辞めやすく、再び挑戦しやすくあるほうが働きやすい世の中である気がします。

就職後の定着に関して、心身の健康管理について言及されています。特に精神的なリフレッシュの機会や場を創出することは急務かもしれません。

最後に小島氏が障害者福祉や教育について3つの問題提起をされています。この記事が書かれた7年前と比して、状況は好転しているだろうかと省みる機会になりました。

 

第44回 「就労の現場から自立に向けて必要な力を考える」(2016.2.27)

http://so-nanda.com/2016/04/14/119/

 

講師は人材派遣会社テンプホールディングス株式会社の特例子会社サンクステンプ株式会社の取締役経営管理本部長の井上卓巳氏。

障害のある人々の雇用に関して、何かが出来るワークスキルもさることながら、大事なのはコニュニケーションスキルやソーシャルスキル。特に自分なりのやり方で良いから挨拶をする等のコニュニケーションスキルや、周囲に不快感を与えない身だしなみに気を遣う等のソーシャルスキルが大切だというのは重要なポイントだと思いました。

就労の準備においても家事を通して教えることや育てることが、時間がかかっても有効だというのも参考になります。

一方で雇用側の指導・育成のポイントも例が挙げられております。

・ルール、マナーは本人にしっかり伝える

・過剰な支援ではなく、必要な援助(人間の学びは70パーセントまでが経験による)

・コミュニケーションの基本は挨拶

・職場に居場所がないことは離職につながる(こうした場合、心の傷を治すのに時間がかかり、次のステップになかなか進めない)

・叱る時は、私情、個人的感情は差し挟まない(出来るだけ人前で叱るのではなく、対面で叱る。ポイントを絞る、その場で、その事実に基づいて、他人と比較することなく、1叱ったら10のアフターケアをとるつもりで)

障害や特性によって失敗をしてしまう事例についても書かれていますが、すべてを障害のせいにするのではなく、一人の社会人として本人と粘り強く話して解決していくようにし、その繰り返しによってだんだんと大人の顔になっていくというお話に希望を感じました。

他方で特例子会社の経営陣の立場からも、親会社や地域に対して、自分とは無関係と思わず障害のある人々について知ってほしいと思っているという点は心強く感じました。

 

働く上でのモチベーションの維持など課題は山積しております。今後も就労というテーマは取り組み続けなければならない題材になりそうです。

(指導員:磯貝佳史)