2020年1月26日(日)に第55回(令和元年度第3回)の自立支援講座が東京・北区の滝野川文化センター第2学習室で開催された(本年度の自立支援講座は、第10回(2019年度)住友ゴムCSR基金の助成を受けています)。テーマは「親なき後を考える」。講師は、行政書士で「『親なきあと』相談室」を主宰する渡部伸氏。「『親なきあと』相談室」は主にホームページなどで情報発信しながら、個別相談なども受けている。障害がある子の親や兄弟のために、自分たち介護者がいなくなった後、今ある制度・サービスを組み合わせることで、障害者本人が少しでも安心して暮らせるようアドバイスをしている。あと、相談できる機関、具体的な解決ができるところにつないだりしている。
「親なき後」は共通のテーマだが具体的なこと分かりにくく漠然とした不安
渡部氏は冒頭、「『親なき後』というテーマは、特に障害がある子を持つ親にとって最後について回る共通のテーマ。ただ具体的なイメージはつかみにくく、漠然とした不安をお持ちの方が多いのではないかと思う、と切り出した。
親なき後の不安は大きく分けて三つあるという。一つ目はお金のこと、どんな準備をしておけばいいのか。二つ目は住まいのこと、子どもが親と住まなくなる時どうするか。三つ目は日常的にケアしてくれる制度や仕組みにはどんなものがあるのか。10年ほどと比べれば、いろんな制度や仕組みが増えている。今後もいろんなものがふえてくるだろう。
老障介護には社会的接点を持ち知識と情報を得ること
最近、老障介護(8050(ハチマルゴウマル)問題とか、4070(ヨンゼロナナゼロ)問題とも言われるが)で、高齢の親と中高年にさしかかった障害のある子で色々なトラブルが発生することが起きている。渡部氏は大変ショックを受けたケースを紹介した。80代後半のお母さんと精神障害のある50歳くらいのお子さんの話。数年前の九州での出来事。お子さんは施設にはいっていて安定した生活を送っていたが、ある時トラブルがあってその施設を出て親子二人で暮らし始めた。近所付き合いがなく、経済的に逼迫し始め、息子さんも衰弱してきたことから、母親が息子さんを自らの手にかけてしまった。どっかで社会的接点があれば救えたはず。日本はそうした福祉の制度があるという。子どもが質の高い生活を送るには、制度、サービスが変わってきているので、知識と情報を得ることが大事。
2014年1月に批准した 障害者権利条約によって、色々な法律が整備されて、少しずつではあるがいい方向に向かっている。障害のある方もない方も多様な方が共生社会として生活する方向に制度は向かっている。共生社会が後戻りすることはないだろう。2016年4月に見直しがあった障害者総合支援法によって新しいサービスも増えている。かなり大きく変わったので大きな動きはしばらくないはずだが、ちょっとした変化は起き続けよう。今が不満な状況でもベターな社会の変わっていく可能性はある。
本講演の冒頭に挙げた親なき後の三つの課題(不安)について詳細を語り始めた。最初のお金について。実は二番目の住まいも三番目の問題もお金がない解決できない。私がよく聞かれるのが、子どもためにお金をいくら残せばいいか。聞かれても困っちゃう。また金額の目標を決めるべきでないと思う。本人がお金で困らないためには、沢山残すことより、そのお金が本人の将来のために使われるための仕組みを考えてほしい。2年ほど前、新聞にこんな記事が載っていた。関西の話。40代の知的障害の男性。ある時会社帰り客引きにつかまってガールズバーのようなお店に連れて行かれ、かなりのお金を使ってしまった。これを2、3ヵ月何回か続けた。銀行に預けていた1500万円がなくなった。いくらお金があっても本人のために使われなければ意味がない。今はそういうことをある程度防げる仕組みができている。
お金で困らないための準備はお金の残し方と管理の仕方
お金で困らないための準備をどうするか。お金の残し方と管理の仕方だ。管理の仕方では成年後見と自立支援事業がある。障害年金を受け取るにあたって一番大事なのが初診時の診断書。これで8~9割が決まってしまう。最低限かかりつけの精神の医者を確保しておきたい。 1年に1回でもいいので健康診断でいいからつないでおきたい。ただ年金に詳しい医師ばかりでない。
こんな話がある。自閉傾向がある19歳のある男性。特別支援学校を卒業していて、月収12~13万円ある。父親が年金の申請をしようとかかりつけの医師に相談したところ、「働いていて12~13万円の収入があるのであれば、年金の申請は必要ない。収入が5~6万円になったら年金申請すればよい」と。この医師は年金と生活保護を混同している。
8~9割は診断書で決まると言ったが、残りの1~2割を左右するのが病歴・就労状況等申立書だ。これは、障害が分かった時とか、障害のせいでこんなことがあったなど時系列で書く。ふだんからちょっとしたエピソードなども書き残しておくとよい。わかってない医師が書くと判定で不利になることもある。親御さんから医師にメモを渡すなどの手もある。診断書と申立書を年金事務所に提出して判断してもらう。最近の障害年金はほとんど有期年金です。1回支給が決まっても3年後とか5年後に再度申立をする。二十歳の時、診断書もらって年金をもらえたら、次の更新の時には診断書は同じ内容にしてもらう。それをするためにも診断書をもらったらコピーしておく。働いている人へのアドバイスとしては職場からの意見書をもらうという手もある。
親と離れて生活するとなると一番お金がかかる可能性があるのが住居費。入所施設(障害者支援施設)に入ると、費用は障害年金から支払われるが、本人に一定のお金が残る。1ヵ月2万円くらい。グループホームがどうなっているかというと、基本は障害年金で支払うことになっているが、実際は地域によっても施設によってもバラバラ。グループホームのお金に関する情報は出ていないことも多い。私の家の近くのグループホームの施設長を知っていたので、利用料の仕組みを教えてもらった。現在、障害年金2級で月にして約65,000円。東京都では心身障害者福祉手当というのがあって、これが15,500円。地域によってプラスがある。グループホームでは家賃助成というのがある。東京都と国で24,000円。地域によってプラスがある。たとえば世田谷区では、最大30,000円プラスされるので54,000円の家賃助成となる。家賃70,000円とすると、一応20,000円くらい残る。ただグループホームに住んでいても昼間は出かけたりするのでお金がかかる。土日は余暇活動でお金がかかる。当然本人が働いたり親が残したりする必要があるが、年金とか家賃助成金とか色んな支援もあるので、親と子どもが離れて暮らしたとしても、子どもの何十年間分のお金を全部準備しなければならないということではない。あと賃貸住宅に住む場合、金銭的助成はほとんどないが、障害者が優先的に入れる公営住宅とか居住サポート事業を行政がやっている。一部の自治体では、障害者がアパートなどに住んだ場合、助成金を出している。
あと固定費だが、保険料などはかかるが、割引とか減免措置がある。例えば携帯電話も手帳を持っていると割引になる。NHKの受信料も割引制度がある。収入によって半額割引や全額割引となる。あと医療費では障害者医療費助成制度がある。東京都の場合、身体、身体や知的の手帳を持っている重度の人の保険診療は無料、昨年1月からは精神障害者保健福祉手帳1級の人も無料となった。。入院して個室を使った場合や付き添いを頼むと実費がかかるので、障害者が入れる保険を検討してもいいのではないか。
自立支援医療(精神通院医療)の制度。軽度の人だと助成の対象にならないし、あらかじめ区などに申請しておく必要があるが、精神科に通ったり精神科の薬を出してもらったりする時は、この制度をを利用すると、通常の3割負担が1割となる。
もめ事を防ぐためにも遺言書を、貧乏な家のほうがもめる
障害者の家族に知っておいてほしいのは、まず、もめ事を防ぐ意味でも遺言を書くこと。日本人は遺言を書かないと言われる。「俺が死んだって家族がけんかするような金はない。財産の争いなんて金持ちの話」なんて言われることが多いが、むしろ貧乏な家のほうがもめる。誰かが亡くなってその方の遺言がないと、相続人が話し合って決める。お母さんと子ども3人いたら3等分すればいいでないかというと、なかなかそうはいかないことが最近増えているという。「私はお母さんの介護の面倒みていたから多くもらわなきゃ」とか「お兄ちゃんは家を建ててもらったから遠慮して」とかとなって兄弟同士では話がつかなくなり、家庭裁判所の調停となる。1/4は相続財産が5000万円以下の話。こんな話も。「うちは一人っ子だから全部この子にいくのだから遺言は必要ない」という声もあるが、私の知っている例でこんなことがあった。障害のある子が一人いて、その子のためにグループホーム建てようと夫婦でお金を貯めていた。ところが父親が亡くなって、母親と子どもに父親の財産を半分ずつ分けた。そのため母親の財産ではグループホームを建てるには足りなくなった。子どもが相続した財産には手が出せない。
遺言がどうであれ法定相続分の半分は必ずもらえる
遺言に関して紹介したいことが二つほど。一つは相続遺留分。配偶者と子どもには、法定相続分の半分は、遺言の内容がどうであれもらう権利がある。このことを事例でお話したい。ウチは4人家族、ボクとカミさんと子どもが二人。ボクが1億円持っているとして、全部愛人にあげるという遺言を書いたとする。しかし遺留分としてカミさんには2500万円、子どもには1250万円ずつもらえる。
もう一つは遺言執行者の話。誰かが亡くなって遺言書がなければ、遺産分割協議書を作成する。どういうふうにお金を分けるか話し合ったことを書類に落とし込む。その書類には、相続人全員が署名して実印を押す。字が書けない子がいた場合は原則として成年後見人をつける。多くの障害者の親は、なるべく成年後見制度を使いたくない。しかし相続が始まると使わざるをえなくなる。遺言書があっても金融機関に提出する書類は同じようなことが要求される。しかし遺言執行者を定めておくと、成年後見制度の利用を避けることができる。遺言執行者は、相続の手続を全部この人だけの権限でできる。銀行でお金を下ろすのも、不動産の名義変更も。遺言執行者は、遺言書の中に書いておけばよい。弁護士でもいいし、相続人の家族の誰かを指定しておいてもいい。ただし、家族の場合、本当にちゃんとやってくれるか心配であれば、多少お金がかかっても弁護士や専門家に依頼すべきだろう。家族でやる場合でも遺言執行者を複数にする手もある。
信託契約を結ぼう
次に信託の話。今、注目が集まっている。子どもの生活に必要な金額を必要な時に渡せる仕組み。親が家族とか親戚とかと信託契約を結ぶ(かつては銀行としか結べなかった)。例えば母一人子一人の家族の場合、母の方に3000万円の財産があるとする。母が亡くなると、この3000万円は子のものになる。しかし障害のある子には管理は難しい。大変な無駄遣いをするかもしれない。そこで、家族とか親戚で信頼出来る人と信託契約を結ぶ。契約を結んだ段階で3000万円は母親のものでなくなる。信託契約を結んだ人は、信託銀行などに口座を作り3000万円を管理することになる。母親が亡くなったら、あらかじめ契約しておいたように、3000万円から例えば毎月10万円、子の口座に振り込む。一気に3000万円使ってしまうことを防げる。さらに子が亡くなった場合は、そのままだと金は国庫に入る。それを防ぐには、信託契約で誰を相続人にするか決めておけばいい。
生命保険信託と家族信託
親が保険に入って子が死亡保険金を受け取るのが一般的な保険だが、障害のある子がいっぺんに多額の保険金を受け取って大丈夫だろうかという心配がある。生命保険信託は死亡保険金を子に渡さない。いったん信託銀行などに入れ、そこから定期的に子に渡していく。
次に家族信託。信頼できる人を受託人にし、例えば今住んでる家とか土地を、親が死んだら売ってもらってそのお金を子に渡してもらうとか 。一般社団法人家族信託普及協会というところがあって、専門家の養成も行っている。
信託銀行の個人向けサービスとしては特定贈与信託と遺言代用信託があるが、遺言代用信託は、信託の仕組みを一番シンプルに実現しやすいもの。大きな信託銀行が大体同じようなことをやっている。数百万~3000万円の間で信託銀行が預かる。その信託銀行は、それを親が亡くなったあと、受取人として指定された子どもに毎月決まった金額を振り込む。定期的にお金を渡していく。保険金のように払い込んだ金額より多い金額が振り込まれることはない。ただし保険のように身体検査のハードルはない。
障害者扶養共済制度というのがある。信託と違って共済なので、保護者が掛け金を払い込み、保護者が亡くなった時、障害者本人が毎月2万円死ぬまで支給される。掛け金の額は保護者が加入した時の年齢で決まる。若い時はいると安い。掛け金払い込みが終了するのは、20年経過し65歳に達した時。34歳で加入すると、毎月9300円を65歳まで31年間支払う。60歳で加入すると毎月23,300円、20年間支払う。保護者が途中で亡くなった場合、障害者本人に毎月2万円支払われる。市区町村の障害福祉課などで受け付けてくれる。加入出来る人は、障害者を扶養している65歳未満の人。
もう一つ、個人型確定拠出年金(iDeCo)というのがある。入れる条件が色々あるが、3年前、保険料の法定免除を受けている障害者年金の受給者も入れるようになった。年金をもっらっていてもふだんあまりお金を使わないようなら、これに加入し、60歳になったら本人が年金として受け取る。iDeCoの仕組みを使ってお金を積み立てていき、老後の資金にする。途中解約ができないなど制約もあるので詳細は各金融機関に聞いてほしい。
ここで紹介したものは、少し前にはなかったものがほとんど。この数年で登場した。そういう状況であることを知ってほしい。これからも増える。 今まで知的障害の人は癌保険に入れなかったが入れるようになった。大変だけど継続的に情報を集めてほしい。
判断能力が不十分な人向けの法定後見
成年後見とは、高齢になって認知症になろうが、障害があって判断能力が不十分であろうが、本人が本人の意思や権利を尊重してもらって本人が地域で安心して生活するための制度。本人を守る人をつける、これが成年後見人。成年後見には法定後見と任意後見があるが、本日話をするのは判断能力が不十分な人向けの法定後見。誰を成年後見人にするかは希望は出せるが、最終的に決めるのは家庭裁判所。
では成年後見人は何をやるのか。基本的には、財産管理と身上監護。財産管理は本人の預貯金の出し入れ、不動産などの管理、処分、身上監護は、診療、看護、福祉サービスなどの利用契約、本人との面談。私の例を話す。私は世田谷区(東京)在住だが、世田谷区では10年ほど前から区民向けに成年後見人の養成研修をやっている。私は7年ほど前に受講した。終了に半年ほどかかった。しばらくすると区から成年後見人をやってほしいとの依頼があった。どういう人の成年後見人かというと高齢で身寄りのない人。ケアマネとかケースワーカーが援助してきていても、認知症などになると財産などに関することに関わる権限がない。となると行政に話がいき、成年後見人がつくことになる。弁護士など専門家がつくこともあるが、研修を受けた区民が後見人になるよう依頼がくることもある。区民後見人だ。半分はボランティアで引き受ける。
私は今まで3人の後見人を引き受けた。いずれも高齢者で、内2人は既に亡くなった。残りの一人は89歳の男性で元気だが認知症。3年ほどやっている。現在、財産管理についてはほとんどやることがない。入ってくるお金は年金だけ、出て行くお金は特別養護老人ホームんの利用料だけ。ただ最初は大変だった。後見人を引き受けると本人の郵便物も転送され、開けて中身も見られる。驚いたのは通販で色々買っていて払っていなかったこと。民間ものは何とか払ったが、滞納していた区民税とか健康保険までは無理だった。区と交渉して年金収入による返済計画なども作成した。
障害者の後見人だと何をやるか。多くの人はグループホームとか入所施設に入っているが、その場合、小口のお金は施設で管理してくれることが多い。お出かけする時は小遣い帳をつけて本人にお金を渡し、帰ってきてお釣りをチェックする。大きなお金の管理は難しいので、後見人が管理する。あと後見人は取消の権限があるので、例えば絶対使わないような高価な羽毛布団を購入契約した場合、後見人が取り消せる。そんな形で本人の財産を守ってくれる。
本人の面倒を見てくれる事業者と契約する権限が身上監護
分かりにくいのが身上監護。本人の面倒を見てくれる事業者と契約する権限が身上監護。私が89歳の男性への身上監護でやっていることは何か。私がその人の後見人になる前、アパートで一人暮らしをしていたが、病気になって入院した。認知症が進み、車イス生活になった。退院しなければならないが、アパートに戻れない。老人向けの福祉施設に入らざるをえないが、そのままでは入れない。認知症になっているので契約できない。私が後見人になったので、私が契約できる。本人は安心してそこに住める。それで終わりではない。本人が安定して継続して生活できているか見守る義務がある。だから、そのホームに毎月顔を出し、ホームの職員とも情報交換してている。
私が聞いた話だが、グループホームに入っているある障害者のケース。日中は作業所に通っている。そのグループホームの内部でゴタゴタがあり不穏な雰囲気になった。その空気をもろに受け、自傷行為も始まった。別のグループホームに移ったらどうかとの話も出たが、その時の成年後見人が了解しなかった。その後見人は1年に1回会いにいくかどうかで事情をよくつかめていなかったようだ。
横領など成年後見人の不正は最近はすごく減っている。一番多かったのは2014年の831件56億7000万円、これがピークだったのががくがくと減って、3年後の2017年は294件金額的には1/4以下の14億4000万円となっている。ただ不正のほとんどは家族の成年後見人。
障害者にとっての成年後見、理念は間違っていない
障害のある子と成年後見制度について考えてみたい。成年後見制度の理念は間違っていないはずだが、障害者の家族の多くは、障害者には向いていないと考えている。私が思う最大のネックは、成年後見制度を一度利用し始めるとやめられないこと(厳密に言うとやめる手続きがないわけではないが)。それから第三者後見人の場合、長期間後見費用を払い続けなければならない。家族が後見人の場合も、家庭裁判所が、後見監督人を選任したと通告してくることがあり、その場合も費用がかかる。どちらにしても本人が亡くなるまで費用を払い続けることになる。
理念は絶対間違っていないので、色々なことが分かった上で、是非使ってほしい。本人守る重要な制度なので。ただ無理に使う必要はない。成年後見制度について相談できる窓口
がどこにあるかをしっておいてほしい。東京23区では、各区の社会福祉協議会の中に成年後見センターとか権利擁護センターなどの名称の部署があり相談に乗ってくれる。家族会などに入っていれば、先輩の親御さんが成年後見人をしている場合もあり、リアルな話も聞けるかもしれない。障害者の成年後見人は、個人でやるのは難しいのではないか、やはり法人や団体がベターではないかと思う。
社福祉法人による成年後見、2年前から可能になったがハードルは高い
ちょっと新しい話。社会福祉法人による成年後見。通所施設に通っている障害者がいるとする。家族以外にその人のことを知っているのは、その通所施設の職員。だったらその通所施設の法人で後見人やってくれたら安心だが、今までダメだった。理由は、その施設はその人と利用契約を結んでいて、利用料を払っている。一方、後見人は契約の権限があり、本人が別の施設に移りたいと希望を出しても拒否できる。本人の利益と後見をしている法人の利益がぶつかってしまう、つまり利益相反となるからだ。ところが2年前からできるようになったが、ハードルは高い。法人の中にチームを作り、専門家を置くなどして第三者チェックをしなければならない。私の知る限り、これをやっている所はない。成年後見制度は、法律はそう変わっていないが運用が結構変わっている。
成年後見制度に似ているのに、地域福祉権利擁護事業(日常生活自立支援事業)というのがある。色んなことが自分でできるが、生活するのに不安がある場合、サポートしてもらえる制度。主に使われているのは通帳やクレジットカードの管理。運営しているのは社協。支援員の人が来てくれて、貸金庫に預かってくれて、必要な時にもってきてくれる。以前こんな相談を受けた。70代後半のお母さんと40歳の自閉症の息子さんがいて、息子さんが苦手のことをお母さんが手伝っていた。銀行に行ってお金を下ろすのが苦手だった。大勢人がいると大変緊張するのだ。
成年後見は障害者には中々広まっていない
成年後見は障害者には中々広まっていない。「まだいい。ギリギリまで面倒を見たい」と。気持ちは分かるが、ギリギリの時は自分では分からない。他人に気がついてもらう必要がある。そのために障害のある子を持つ親で任意後見制度を活用しているケースがある。契約の中に、自分がぼけたら、障害のこの子の面倒を見る人がいなくなるので、この子の後見申立てもお願いしたいとの契約事項も入れている。
去年の夏の終わり、報道機関から私のケータイに電話があった。「〇〇さんという人知っていますか」。私は知らなかったが、事情を聞くと、その人が亡くなって、そのそばに50歳くらいの知的障害の娘さんがいたという。1ヵ月くらい気づかれなかった。亡くなった人は近所付き合いもほとんどなく、娘さんも日中活動に行っていなかった。食事は自分で何とかしてたようだ。制度は使う人がいなければ意味がない。制度も大事だが、より大事なのは地域でのつながりだ。
生活の場をどう考えるか。地域生活支援センターの考え方は、障害者が地域で安心して継続的に住めるために、いろんな機能を地域で持とうというもの。例えば親子で住んでいて親が急に倒れて子どもが一人でいられなくなった時、その状態がすぐ分かる仕組みを作る、子どもの居場所を探す、何かがあった時すぐ相談ができるといった機能を地域で持ちましょうという考え方。
バリエーションが増えてきた住まい方
住まいの話。住まいはバリエーションが増えてきた。富山とか宮城とかに共生型グループホームというのがある。障害者と高齢者のグループホームは、法律・制度の関係で別々だったが、これを一緒に生活するようにしたもの。いろいろいいことがある。例えば料理を障害者と高齢者が一緒に作るとか、女の子と高齢者のグループホームでは女の子が高齢者の部屋の掃除を手伝うとか車イスを押すとか、今までは支援される側だけだった人が、支援する側にもまわれる。そこから、自分らしい生き甲斐とかやり甲斐が生まれる。まだ制度的には一部の地域だけだが、これから拡がっていく考え方だろう。
シェアハウスという考え方も始まっている。高齢の方、引きこもりの方、軽度の障害者が一人の生活を確保しつつ話相手もいる暮らし方。練馬区の例では、2階がシェアハウスで1階がB型作業所。昼間だと1階に来ると誰かいるので孤独にならずに済む。
大分にある有料老人ホームは、4階建ての大きなホームだが、2階が半分に分かれていて一方が有料老人ホームでもう一方が障害者グループホーム。有料老人ホームには親が入り、障害者グループホームにはその子供が入る。親子で住んでいる例はまだないそうだが見学が絶えないとか。
千葉県富津市の例。グループホーム6棟が同じ敷地の中にあり、3棟が障害者グループホーム、3棟がシェアハウス。シェアハウスには、障害者グループホームに入っている障害者の親が入居している。
あと住まいの動きとして、ハウスメーカーが土地持ちオーナーと運営事業者をマッチングしてグループホームを建設するのがある。アパートだと空き室が出るリスクがあるが、グループホームだとそれがない、社会貢献もできるというわけだ。自治体によっても色々な取り組みをしているので調べて見るといい。
日中サービス支援型グループホームというのも一昨年から始まっている。一般のグループホームは、日中は外で過ごすので支援者がいなくてもよかった。しかし重度の障害者とか高齢の障害者の場合、昼間出かけるのも難しい。そこで、日中も必ず支援者がいるのが日中サービス支援型グループホーム。
福祉サービスは是非積極的に利用してほしい。高齢の親御さんなどからは、「ウチの子供の面倒を見てもらうのは申し訳ない」という声も出がちだが、かえって迷惑。親御さんが亡くなっていきなり障害のある子が出てくると行政も周囲も大変。最初から色んなサービスを使うことで、地域もその方たちのことを知ることができるし、何かあった時も対応しやすい。
「親なきあと相談室」で漠然とした悩みにも対応
親が自分たちで面倒みられなくなった時、すなわち“親なきあと”について相談しようと思っても相談窓口がない。私は6年ほど前から「親なきあと相談室」を設け、窓口となって、漠然とした悩みに対して、必要な窓口につなぐことをやっている。 現在、このような窓口は全国で60ヵ所くらいある。
私自身に相談を希望される方はメールでもいいし、直接の個別相談を希望する場合は、ゆうちょ財団のホームページ(https://www.yucho-shien.com/soudan/)の「相談申込み」をクリック、出てきた画面で必要事項を記入、相談内容部分に“「親なきあと」の相談、渡部伸氏希望”を入れると、月1~2回の木曜日にやっている50分の無料相談を受けられる。
最後に今からやっておいてほしいこと。一つは将来のことは家族で共有してほしい。もう一つは兄弟姉妹で情報共有してほしい。兄弟姉妹も情報共有によって自分たちはどうすべきかを考えたいことが少なくない。一人暮らしの練習もしてほしい。ショートステイとか。
将来子どもが困らないためにやっておくことは、定期的にお金の入る仕組みを用意、病気リスク対応のための保険加入、困ったとに頼れるルートの確保など幾つかあるが、こうした準備がうまくいかなくても、地域の中で接点を持っていれば、子どもの面倒は周囲の誰かが見てくれる。
最後のまとめ
・社会と接点をもつ=子どものことを話せる相手を見つけておく
・状況はよくなっている、と気楽に構える
・最低限の準備はしておく
・いざとなったら何とかなる!
(事務局長・福喜多孝)