2019年9月21日(土)、第54回(令和元年度第2回)の自立支援講座が東京・北区の滝野川文化センター第2学習室で開催されました(本年度の自立支援講座は、第10回(2019年度)住友ゴムCSR基金の助成を受けています)。テーマは「障害者にとっての成年後見制度を知る」。講師は、一般社団法人川崎障がい者相談支援専門員協会監事で一般社団法人成年後見センター ペアサポート理事の小嶋珠実氏です。

障害者向けの成年後見制度の利用は高齢者とは異なる
小嶋氏は冒頭、「成年後見制度は2000年から始まり20年経とうとしている」と話し始めました。小嶋氏がこの講座でこのテーマで話をするのは3回目、この制度自体は変わっていないが、考え方とか実践例は相当変わってきているとします。一般的に成年後見制度の話となると、高齢者向けと障害者向けの話をまとめてすることが多いが、使い方は全然違うという。お金を持っている高齢者とお金がない障害者は別。一般的にこの制度について話をする時、対象に関係なく話をすることが多いが、実践家である小嶋氏は、本日は障害者向けを意識して話をするとした。

成年後見制度を本当に理解してから使おうと思わないほうがいいという。生活保護法を全部理解したうえで受給しようとするわけでないのと同様。あくまで制度全体を理解する必要はないという。

成年後見制度は地域で安心して生活していくための道具(ツール)
講演はまず、「成年後見制度とは」から始まった。成年後見制度は認知症や障害のある人が地域で安心して生活していくための道具(ツール)の一つ、とする。適切に道具を使いこなすためには、使う側も提供する側も、その道具のことをよく知り使いこなしていくことが重要、この制度の課題と意味を理解してほしい、と話した。

最近、NHKの「クローズアップ現代」で信託の特集をしたが、今、高齢者の間では「信託」か「成年後見制度」 かが話題になっているという。家族で自由に使える信託のほうが成年後見よりいいというわけだが、これはすべて高齢者向けの話という。

本人に判断力があれば任意後見、判断力が充分でなければ法定後見
次に「成年後見制度の種類」の話。障害者にとって成年後見制度は必要だが、問題は使い方。成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度があるが、前者は、ご本人が判断力のあるうちに、自分で、“誰に”、“何を”、“いくら”で依頼するかを決めて公正証書で契約する。いわば“事前”の対応。後者は、既に判断力が不十分な人について家庭裁判所が後見人等を審判で専任する。いわば“事後”の対応です。小嶋氏は、知的障害の人には任意後見制度はお勧めしない、本日はすべて法定後見制度の障害のある方のための話をするとした。報道で成年後見の話に接した時は、どちらの後見制度についてなのか意識してほしいと話した。

成年後見の役割は「財産管理」と「身上保護」
話は「成年後見人の役割」に移った。二つあり一つは「財産管理」。これは金銭管理と消費義務。もう一つは「身上保護」(昔は身上監護と言っていた)。これは本人の生活を保護すること。本人のお金を守ることと生活を守ることのバランスをとるのが後見人というわけだ。後見人に対する批判に、「会いにに来ない」というのがあるが、会いにいくのが後見人の仕事。会わないとご本人の希望を聞けない。本人と我々の意見が違った場合は、基本的に我々が折れると小嶋氏は話す。金銭管理だけだったら弁護士の委託契約で充分で、後見人はいらないという。お金を管理してどう使うのか 一緒に考えるのが後見人だ。

現在は成年後見人の7割が本人とは第三者
続いて「成年後見制度の利用を考える」。たとえば誰が後見人になるか。以前は親や兄弟姉妹がいいと話したそうだが、10年くらい前から第三者をおすすめしているという。親の役割、兄弟姉妹の役割は全く違うからだ。現在、高齢者を含めて7割が第三者、昔は7割が親族だった。後見制度利用にかかる費用はどうか。現在、在宅の人で月額2万円くらいだそうだが、本人が支払うとは限らない。公的に支出する自治体もある。

財産がない人に後見人が必要かという問いには「間違いなく必要」だそうだ。お金がない人は生活保護など交渉先が増えるからです。遺産相続については、後見人が家庭裁判所と相談して決めることになるという。障害者の中で発達障害の方は、コミュニケーション障害がありがちで周囲から誤解を受けやすい。その歯止めになるのも専門職の後見人だ。

自分の目が黒いうちに自分の考えを託せる人間を探しておく「家族と後見人等の役割の違い」については、親亡き後の墓参り、買い物や旅行のサポートはヘルパーの仕事で後見人の本来の仕事ではないが、してはいけない仕事ではないそうだ。障害者はいくらくらいお金があったら安心できるか。生活保護を受給している方でも100万円くらいの貯金を持つようにアドバイスしているという。たとえばグループホームを利用している人が1年くらい精神科病院に入院するとグループホームの契約を継続していくために100万円くらいかかる。また後見人にはやはり専門職がいいという。

障害のある人の親亡き後の問題については、親御さんは自分の目が黒いうちに自分の考えを託せる人間を探しておいたほうがいい。

成年後見制度利用にかかる費用だが、まず申立費用は1万円くらいのほか特別送達等にかかかる郵送費。次に鑑定費用。昔は30~40万円かかたのですが今は5万円くらい。報酬は、成年後見制度利用支援事業というのがあって、東京でも全額出る区とそうでない区がある。特に任意後見はかかる。

両親や兄弟姉妹は成年後見人にしないほうがいい
「だれが成年後見人に専任されるのがいいか」。ご両親や兄弟姉妹は選任されないほうがいいと小嶋氏は言います。第三者を後見人に専任する場合、専門職後見人、市民後見人、法人後見などに分けられますが、専門職後見人は大勢いるのですぐ見つかるという。専門職の中には弁護士、司法書士、社会福祉士、精神保健福祉士などがいる。市民後見人は市民の方が後見制度を理解してなるが、対象が高齢者の場合が多い。あと法人後見人。障害のある方、特に発達障害、コミュニケーション障害がある方については、それらの障害に理解のある福祉関係者が関わる法人よいと思う。あと障害者の親御さんたちが法人を立ち上げて法人後見人を引き受けるケースがあるが、自分の子どもには冷静になれないけど他人の子どもに対しては客観的に関われると話される方も多い。

当事者の味方になってくれるか
最後に「障害のある人に成年後見人等が関わる意義」にいついて。まず長期間関わることになるので、異動のない安定性が求められます。小嶋氏の場合、一番下が20歳、上が80歳代の障害のある方、長いお付き合いになります。後見人は基本的に替わりません。ただ、ウマが合わない、相性が合わない場合は柔軟に替えましょうという考えも最近はみられる。あと金銭管理の支援、中でも隔月の障害基礎年金は管理しにくいもの。また関係機関との交渉役、障害特性を踏まえた外界との通訳、ご本人がしたい事を実現するための相談役、言い換えれば当事者の味方となることも後見人の大事な役割です。(事務局長・福喜多孝)