第45回(平成28年度第1回)自立支援講座が9月17日(2016年)に東京・北区の赤羽文化センターで開催されました。テーマは、「知的障害児・者の防災準備」。講師は、公益社団法人市民防災研究所主任研究員の伊藤英司氏です。

このテーマは平成25年にも取り上げました。その時の講師は北区危機管理室防災課防災計画係長の岡部毅氏でした。今回、北区に同じテーマでの講演を依頼したところ、防災関連のセミナーは民間の市民防災研究所に委託されているとのこと。民間の防災研究所の講師からまた違った視点でのお話を伺うことが出来るのではとの期待がありました。

まず伊藤氏のお話のポイントを箇条書きにします。

東日本大震災の被災地を調査してみて重要なことは
・自分の命は自分で守るという意識を一人一人が持つこと
・日頃の“備え”と“訓練”は、災害時に必ず生きる
の2点です。

今後30年以内に、南関東でM7クラスの地震発生確率は約70%とのこと、いつ大地震が起きてもいいように“備え”と“点検”が重要です。

次に避難所について。私たちがとても気になる避難所とは、自宅の倒壊や焼失などにより生活出来なくなった人たちが、次の住まいを確保するまでの「一時的に生活する場所」であって決して快適な生活を期待できない過酷な場所なので、むしろ「避難所で生活しないための備え」を目指しましょうとのことでした。

東京は、大都市なので避難生活想定数は約220万人で東日本大震災の際の最大避難者数は約47万人。このことを考えても避難所で生活しないための備えが必要。そのためには

・地震に強い住まいに住む
・家具の転倒・落下移動の防止
・初期消火対策
・出火防止対策
・被災後の暮らしを守るための備蓄、トイレ対策
・ライフラインが停止した時に役立つ知識を持つこと
以上のことが重要ということでした。

前回の「知的障害児・者の防災準備」の講座では「避難所の運営は町内会が行う」ことや「障害のある方々には福祉避難所が設置されること」などのお話がとても印象的でした。今回は、東京という大都市であることを踏まえて「避難所生活はとても過酷であり、福祉避難所も高齢者の利用も多いだろうと予測され、むしろ避難所で生活しないための普段の備えと訓練が大切」というお話になったようです。

そこには健常者も障害者も関係なく、自分の命は自分で守るという意識を一人一人が持たなければならないという厳しさを感じました。決して障害のある人々に対して冷たいわけではないのだが、日本のような自然災害の多い国では一人一人が命を守るという意識を持つこと、日常の備えの大切さを痛感しました。まさに「津波てんでんこ」という言葉をかみしめた講座でした。

「津波てんでんこ」とは、「各自」「めいめい」を意味する名詞「てんでん」に、東北方言などで見られる縮小辞「こ」が付いた言葉で、共通語に置き換えると、「津波はめいめい」の意味になります。これを防災教訓として解釈すると、「津波が来たら、取る物も取り敢えず、肉親にも構わずに、各自てんでんばらばらに一人で高台へと逃げろ」という意味になります。

一見他人に構わず逃げろという利己主義に誤解されやすいのですが、この言葉には「自分の命は自分で守る」ことだけでなく、「自分たちの地域は自分たちで守る」という主張も込めてあるそうで、緊急時に災害弱者(子ども・老人)を手助けする方法などは、地域であらかじめの話し合って決めておくよう提案しているそうです。つまり、標語の意図は「他人を置き去りにしてでも逃げよう」ということではなく、あらかじめ互いの行動をきちんと話し合っておくことで、離れ離れになった家族を探したり、とっさの判断に迷ったりして逃げ遅れるのを防ぐのが第一であるとのことなのです。(理事長)