障害のある人々が就労することが当たり前のように言われるようになりました。去る7月4日に開催した第42回自立支援講座では、これをテーマとして取り上げました。題して「知的障害のある人々の就労の今――地域で暮らし豊かな未来のために」。講師は社会福祉法人ドリームヴイの理事長である小島靖子氏です。ドリームヴイは、就労支援、居宅介護、グループホーム、就労継続支援B型など多岐にわたる障害者支援事業を現在行っています。小島氏は元・都立王子擁護学校(現・都立王子特別支援学校の教員。2003年に「王子養護学校の卒業生を応援する会(ヴイの会)」を土台にドリームヴイを立ち上げ、長年障害のある方々の就労支援に携わってきました。
自立支援講座当日の参加者は約25名。すでに就労している20~30代の息子さんや娘さんがいる方、お子さんが学齢期の方が大体半々ずつという構成でした。そのことを踏まえて小島氏は長年の経験を活かしてお話を進めます。
1980年頃は養護学校を卒業しても就労先はほとんど無い状態
blog150704-01.jpg1950年頃は就学免除(学校に行かなくていい)という制度があり、障害のある人々の全員就学がやっと実現したのは1980年頃。そして当時、養護学校を卒業しても就労先はほとんど無い状態だったそうです。そんな中、小島氏は王子近辺の理解がありそうな小工場、メッキ工場、製本工場などを片端から頼んで回ったそうです。時には理解を示してまず実習からと引き受けてくれるところもあったそうです。
大企業などはほとんど門前払いでした。それでずいぶんと悔しい思いをされたとか。また、当時は障害者は中学を卒業して16歳で働くのが良いとされていた時代でもありました。しかし平成に入って外資系の会社、デニーズやマグドナルドなどが障害者の雇用を始めました。しかしあくまでもキッチンなどバックヤードの仕事が主であって接客は出来ないだろうと決め込まれていました。
平成5年、ケンタッキーが初めて王子養護学校の卒業生を採用しました。その後、クロネコ宅急便のヤマト運輸のトップだった小倉昌夫氏がヤマト福祉財団「障害者の働く場を創っていこう」という声を上げてスワンベーカリーなどを立ち上げるという動きにつながっていきます。今日では障害者最低雇用率2パーセントの法規制」(従業員50人以上の企業)があり、大企業からも求人が来るような時代に入りました。ある意味では“良い時代、地域のなかで暮らせる時代”になったようです。また、企業が障害者を雇用する動きもあながち雇用率の達成のみが目的ではなく、“共生社会”という社会理念がかなり一般社会に根付いてきたのではないか、と小島氏は分析しています。
福祉就労と一般就労、どちらを選ぶかで成長に差
blog150704-02.jpg現在では知的な障害を持つ人は高等部卒業後、福祉就労(作業所などへの就労)と一般就労(企業などへの就労)に大きく分かれるようです。保護者も自分の子どもはどちらだろうか、など悩むところです。
小島氏は出来るだけ一般就労を皆に薦めたいと言います。「どちらの道を選ぶかでその人の成長に差が出てくる」と氏はご自分の体験から事例を二つ挙げました。
一つは、学校では一切お話をしなかった人が会社で働き出してから話すようになったという例です。話をせざるを得ない状況になったのでしょう。厳しいけれど一般で働くと大きなものを得る、と小島氏は話します。
もう一つの事例は自閉症の方の例です。小島氏が一般就労を薦めたとき、保護者はびっくりしたそうです。その方は1987年に高等部を卒業してクリーニング店に勤務して以来、現在も働いている、働く場が合っていたということでしょう。能力ではなかったのです。彼らの持つ何かが人の心を揺さぶるのではないか、以前はとても無理と思われた接客の場にも積極的に雇用する企業も出てきた、そしてそういう会社の姿勢を会社の社会貢献として認める社会の土壌が出来てきたのです。「出来るだけ一般就労で可能な限り働いてみよう、そしてダメな時は潔く辞めることも必要」と小島氏は言います。
保護者の役割、家事を一緒にやってみることも就労に役立つ
blog150704-03.jpg保護者の役割で大事なことは自分の子どもがどんなことが好きか、どんなことが得意か、どんな時に良い表情をしているか、といったことを普段からつかんでいることです。そのためには家事を一緒にやってみること、家事は段取りが必要で将来の就労のためにも役立つようです。
就労維持のポイントはリフレッュと健康管理
小島氏は、就労を維持するには二つの大事なポイントがあると話します。まず一般就労したものの昼休みなどでなかなか会話に入れないこともあります。そんなストレスを解消するためにもリフレッシュ出来る場を持つことが大切です。ドリームヴイでは時々仲間が集まる場を提供しているそうです。もう一つは健康であること、30歳も過ぎると段々、血圧、血糖値などの問題が出てくる、何よりバランスの良い食事が必要ということです。
現在の障害者福祉や教育について問題提起
小島氏は、就労も含めた現在の障害者福祉や教育について問題提起をしました。一つは知的な障害を持つ人々が高等部を卒業すると就労しか道がないこと。青年期の彼らにとって学ぶ場がほとんどない、そのような場があっても良いはずと提唱しました。
blog150704-05.jpg二つめは障害者の就労が進むのは良いが、学校生活が就労のみを目的にして学校生活らしさのない学校が出現していることです。
三つめは福祉事業の分野への民間企業の参入です。利益を生み出さない分野に民間が参入して質の低下をまねくのではないか、また実際にそのようなことが起きているというのです。
多くの保護者が大切なことをこの講座で得られたことと思います。時代の変遷に応じて知的な障害のある人々の教育、福祉のあり方も変化してくるようです。NPO法人勉強レストランそうなんだ!!はそれらの変化に応じた課題をこれからも取り上げていきたいと思います。(理事長記)